90年代半ばの台湾。公園を散歩中の女性が切断された女性の手首が入った赤い小箱を発見した。
警察と協力して捜査にあたる検察官のクォ・シャオチーは、この事件が連続誘拐殺人事件である事に気がつき始める。
そんな中、被害者の祖父の元に犯人から接触が……。
宮部みゆきの代表作をベースにした全十話の台湾ドラマ。
はるか昔に原作を読んだ事がありますが、あまりの面白さに寝る間も惜しんでページをめくり、そのあげく終盤の酷な展開に「これ以上読めない」と3日ほど中断せざるを得なくなった小説です。(3日後再開し無事に完読してます)
覚えているかぎり「これ以上読めん」と思った小説はこの本を含めてわずか3冊で個人的には思い入れの深い作品です。
日本から台湾に舞台に移し、くわえて小説から10時間強の連続ドラマにするにあたって多くの改変がなされていますが、ストーリーの根幹となる部分は原作に忠実、必要に応じてなされたキャラ変更も、原作の登場人物の属性を引き継いでいたりするので「まるで別物」という印象にはなりませんでした。
むしろ「これぞ模倣犯」という印象。
原作と最も大きく違うのは主人公の検察官・クォ・シャオチーという存在。
ドラマを引っ張る唯一無二の主人公、このクオ・シャオチーは原作には存在しないオリジナルのキャラクターです。
原作は、事件の第一発見者となる塚田少年、事件を追うライター、被害者家族、警察、容疑者、容疑者家族、そして犯人と複数の視点人物が章ごとに入れ替わって進んでいくマルチプロットの小説で、センセーショナルな事件そのものに加えて、事件が関わる人やその家族の日常をどれだけ激しく揺さぶるか、という部分に大きく紙面が割かれています。
それゆえに文庫にして全5巻という「全盛期のスティーブン・キングかよ」という特大ボリュームになったのですが^^;
今回制作を担当した台湾チームは、その長大な原作をむりくり10時間の映像作品に押し込もうという無茶を避け……。
代わりに前述のクオ・シャオチーという人物を創作し、彼が主人公としてドラマを引っ張っていく形にすることで、ストーリーの中心には誘拐殺人事件の推移が常にあるよう構成。
くわえて……。
主人公のクォ・シャオチーには家族3人を虐殺されたという設定と(余談ですが、これは原作の塚田少年の設定に類似してます)容疑者の姉ユンホイとプライベートで親交がある、という設定を追加。
副主人公1のテレビ局の制作スタッフ、ルー・イェジャンにはルームメイトが殺されているという設定を。さらに副主人公2の主任刑事リンは劇中で実の娘が犯人に誘拐されるという展開で、事件を追う主要登場人物全員に被害者としての当事者性を追加。
結果として視聴者はクオ・シャオチーの目線で事件の推移を追いかけつつ(一緒に捜査している感覚になる)同時に彼らに追加された属性を通して、被害者(または被害者の関係者)の心の揺らぎも目の当たりにする事になる。
この2つ改変によって、凄惨な事件の顛末を追うサスペンスと暴力に翻弄される人間を描いたヒューマンドドラマの融合という原作の持ち味を全10話という尺の中で、スピード感を殺す事なく共存させることができたように感じます。
今回の台湾版模倣犯が、原作既読者にも比較的好意的に受け入れられているのは、行われた改変によって、むしろ原作の肌触りが再現されているからなのかな?
という印象を個人的には思いました。
男の僕でも眉間にシワがよる凄惨なシーンもわずかばかりありますが、原作同様に全10話、寝る間も惜しんで次の回を見たくなる抜群に面白いドラマです。
ぜひご覧ください。
さて読んでくれてありがとう。
また別の作品で。
ドラマに興味を持ってくれた方はぜひこちらの原作もお読みくださいませ。