全8話のほとんどの時間、押しかけイケメンとの色恋よりも金策に頭を悩ませていたJimおじさん。
Gaipaママからの援助を断り、姉からの申し出も断って、さぁどうやって慣れ親しんだ店を守るんだろう?と思っていたら8話序盤で早々に店を手放す展開に。
思い出がたくさん詰まった店はそれゆえにおじさんに絡みつき、前に進むのを阻む鎖となっていた。
過去に追いすがられる男としがみつく男という違いこそあれ、次の一歩を踏み出すためにはWenもJimおじさんも自分の過去と対峙する必要があった。
追いすがられた男・Wenは同棲生活をキッチリ解消する事で過去から逃れた。
同様にしがみついていた男・Jimおじさんも次の一歩を踏み出すためには行動を起こさなきゃいけない。
店を手放すという展開を意外に思ったものですが(色々あったこの店で、これからも色々な事を乗り越えていくんだろうね的な暖かい幕切れを想定していたのです)こうして少し引いて考えてみると必然だったんだな、と感じます。
Moonlight Chiken 終盤戦(7話〜8話)
そしてさらにぼんやりと考えると、このドラマは最初から「慣れ親しんだ場所を出て、新しい人生へ踏み出していく。その始まりのせいぜい数歩」を描く事を意図していたのだと思い至ります。
おじさんの甥・Li Mingは耳の不自由な同年代の青年Heartに出会い、フワッフワッの人生計画から一歩進んで、具体的な人生の道筋を描きはじめる(でも実際に歩き出す様はほぼ描かれない)。
理解ある母と、長く想い続けていたJimおじさんの両方をほとんど同時に失ったGaipaはなんの準備もなく新しい一歩を踏み出さざるを得なくなる(新たな人生を並走してくれる人物・Alanとの出会いは描かれるけど、その進展はほぼ描かれない)。
Lengもまた妻の妊娠と店の閉店を機に会社努めを始める事になる。
そんな登場人物の始まりの一歩(人によっては終わりの一歩だと思うのかも)は必ず人との出会いや別れを伴って訪れる。
1人で生きていく事は可能でも、自分1人で人生の新しいページを開くことは、きっとできない。人と出会い、人と別れ、そして人と共に生きる事を通してこそ、人生は動き出す。風が流れ始める。
店を手放し、心機一転フードストールで営業を始めたJimおじさん。
ベイエリアにて営業中の新しい店。野外に置かれたテーブルには馴染みのメンツが集まっている。
実際のところ彼らを取り巻く環境は大きく変わらない。
Heartの聴覚障害が改善したわけでもないし、子供が生まれたLengファミリーはおそらく経済的にはカツカツで先の見通しもおぼつかないだろうし、母をなくしたばかりのGaipaもまだまだ哀しみと混乱の中にいるでしょう。
それでもこのラストシーンには、旧店舗ではあまり感じられなかった開放感を感じます。
お話それ自体の感想とは別のところで気にかかった事を最後に1つ書いておくと……。このドラマ。
タイに限らずBLドラマでありがちな「性別は関係ねぇ。お前だから好きなんだ」という設定を採用せずに主要登場人物のほとんど全てが明確にGAYの男性として描かれてます。
「同性が好き」がまず最初にあって、その次に「◯◯に惹かれてる」が来るわけで、だからこそ「かっては熱烈に愛していたAlanへの想いが冷めて、別の同性を恋愛対象として好きになる」という展開が可能になってくるわけですけど……。
演じてる役者陣はどなたもここまで明確にGAY設定の役をやった事がないように思うんですが今回の役をやる上で葛藤やら戸惑いやらはなかったんでしょうかね?
キスやらハグやらはBLドラマで経験済だから、さほど苦労はしないと思うですけど「貧困にくわえてセクマイなんて」という自分を棚にあげたJimおじさんの嘆きとか「自分ののせいでLi Mingもそうなった」みたいな自責の念とか「別に反対はしてないわよ。でも笑顔で受け入れられる話でもないわよ」みたいなお母さんの反応とか……。
BLドラマとしてキャスティングされたとすると、かなりリアルなセクマイの悩みや葛藤を表現することになったわけで、その辺りどう感じていたんだろうか?
というのは後半になるにつれて気になる部分ではありました。
以上。
初回こそ「表現したいことがよく分からないぞ……」と思いましたが、欠点ばかりの我々と同じ庶民が、自分を縛る鎖を断ち切り前へ歩き始める展開は、心に優しく火を灯してくたといいますか……。もうちょっと色々頑張ろう、という気にさせられるよく出来たヒューマンドラマでした。
初回で辞めずに本当に良かった^^
それでは。読んでくれてありがとう。また別の作品で。