タイBL『I feel you linger in the air』の感想を
洗練された作りながらも、どこか不穏な空気漂うお屋敷のドアを開け、一人の青年が屋敷の中に入る。おずおずと室内を検める中「Jom」と彼の名前を呼ぶ声が……。
青年・Jomは声に導かれ2階の一室へ。わずかに開いた扉の奥の寝台には2人の男。仲睦まじそうな2人の片割れが自分だという事に気がついてJomは驚く。
室内へ入るJomだったが先程の2人の姿はどこにもない。
あれは目の錯覚だったのか……。
首をかしげるJomは鏡の中についさっき見た自分が驚きの表情で自分を見返していた事に気づき、またも驚く。
「Jom」
またしても彼の名を呼ぶ声がして、そこでJomは目を覚ます。
邦題は「愛の香り~I Feel You Linger In The Air~」
初回はさほどでもないですが、タイトルからも感じられる昼ドラ感はなんとなく匂ってきます。
けっして展開が遅いわけではないのですが世界観の構築を重視しての、じっくりとした人物、設定の紹介が続くので初回の最後にようやくJomと彼のパートナーとなる若者が出会います。
つまりはBL的な展開は次回から本番で現在は未知数。
とはいえ現時点でも特筆すべき長所を多く持っています。まず最初にあげられるのが映像の美しさ。
予告編を見ていただくのが一番てっとりばやいでしょう。
差し込んでくる陽光の美しさが予告では印象的ですが、およそ100年程前の(おそらくは)富裕層の邸宅や川を行き来するカヌーや街の空気感など美術面のクオリティも高い。
くわえて主役のJom役がバッド・ジーニアスで素朴な青年から闇落ちしていく暗記の天才Bankを演じ役者としての評価が高いNonkulさん。
バッド・ジーニアス、hormones、ProjectSと複数の作品で彼の演技を見てるんですが、今まで「素朴な気のいい」という印象はあれど「カワイイ」という印象を感じた事はなかったのですが……。
今回のJomは少し大人しめな雰囲気と彼氏が年上という事もあっての甘えたな仕草が非常にカワイイ。
常にどことなく前傾姿勢で服の裾をつかんでるんだが、つかんでないんだかって位置に手がある感じがJom君の自信のなさ、気の弱さも感じさせるとても細かいアクセント。
ノリでその場をごまかせるタイプのキャラではないので、なにかアクシデントや違和感が起こる度に黙り込んで考えるのですが、その「現在考え中」を顔芸に走らず、無表情にもならずに表現するのでモグモグしてる表情すらも深みがある。
あ、泣くのかな?そろそろ目がウルッときたりするのかな?と思わせるさみしげな表情を表現しつつも涙は見せない(たぶんそれだと分かりやすすぎるし、やりすぎて安っぽくなる)。
気が散ることなく安心して物語の世界に入っていけます。
パートナーとなるBrightさんはなんといっても初回出番らしい出番がなかったので未知数ですが、Jomの元カレさんも安定していて、年上なのに自分の事しか考えてないゲスい感じにイラッとします。
もう一つ特筆するべき点は演出力とでもいうのでしょうか……。シーンの空気を作るのがとても上手い造り手だなと感じました。
タイドラマではほぼお約束のような擬音表現がなく(もしくはあっても気がつかないレベル)音のないシーンも多いのですが、序盤はそれが「なにかよく判らないけど不思議な事が起こってる」という印象を与え緊張感を作っている。
100年前の世界に来たJomが街での振舞いが挙動不審すぎて、ついには街のみんなから猜疑の目を向けられる(背後に映る人たちがボケボケながらもJomに視線を向けるように演出してる)。すでにこの時点で街の人達に吊るし上げられる雰囲気は作られている。
Jomがその場面で抱くであろう感情がちゃんと視聴者に伝わってくるので、台詞も特に序盤は少なくて、展開も比較的ゆっくりなのに飽きる事なく視聴することができました。
次回はいよいよパートナーとの出会いがあってのBLとしての本編が開始。
待て次号!