※間接的なネタバレを含みます
スウェーデンに長期滞在していたJeanは、2年ぶりに(不本意ながら)バンコクへ帰国した。
父が去り誰も弾かなくなったピアノを筆頭に、家は物で溢れかえっている。
Jeanはミニマリストを自称してるし、バンコクで仕事をするためにはオフィスが必要という事もあり、弟を巻き込み自宅の断捨離を開始した。
あれもこれもと容赦なくゴミ袋に放り込めたのは最初だけ。
「ポッドキャストとSpotifyの時代に、CDなんて時代遅れ」と捨てたのは、友人からプレゼントされたCDで。
その友人こそリフォームを任せることになった人物で「あなた、本当にこれを捨てるのね?」と遺憾の意を表明されて気まずくなったあたりから、断捨離の難易度はあがっていく。
廃品業者に大量のゴミ袋を引き渡し、さぁ断捨離の第一段階、無事終了!のハズだったのに、ものの数秒で前言撤回。
家は業者から奪い返したゴミ袋で前よりひどい有様に。
さらにはゴミ袋の中に弟のために編んだマフラー?を見つけ、彼女は悟る。
モノは単にモノというわけじゃない。どんなモノにも必ず思い出が紐付いている。
リフォームするために物を減らさないといけないけれど、きれいサッパリ捨てることができなくなったJeanは、思い出の品を元の持ち主に返すことにした。
喜ばれる事もあれば(当時の人間関係を引きずって)怒られることもあるが、最大の難関は元カレから借りたコンパクトカメラ。
スウェーデンへの渡航を機に、連絡をとらずにいた彼はJaneの家のすぐ近くに住んでいる。
直接返せる距離なのに、気まずさが先にたった彼女はカメラを郵送。
が、しかし「受け取り拒否」で荷物は戻ってきてしまう。
こうして彼女は元カレAimの家を訪れて、彼と再会するのだった。
と、いうのが冒頭3分の1くらいまでのあらすじです。
ここから映画は劇中にも引用されてる「片付けのプロ」を一旦全否定して^^;
「どんな物にも思い出がついてまわるから、かんたんに捨てられないんだよ(そしてそれが人としての情なのよ)」という趣旨の元、進んでいきます。
物語の大きな軸になっているのは、2年前に自分が捨てた元カレとの関係と、自分たちを捨ててどこかに去った父のピアノを処分するかどうするか。
という2つ。
一旦は捨てた関係が再び取り戻せるかも、と期待する展開と、
関係が終わっているのに捨てられない(認められない)という展開が同時に進行していくのが面白いですね。
後者は「夫はいつか戻ってくる」という希望にすがる母親とのやりとりを通して語られます。このお母さんを演じているのはLove by Chanceでも、Who are youでも「Pete」の母親役を演じた方・Umさん。
どちらも上流階級に属する品のいい落ち着いた女性という役どころでしたが、今回はごちゃごちゃした下町に生きる庶民の女をとても自然と演じています。
前者は「あぁこれはこの2人がヨリを戻す話なんだな」と思わせて、すぐ今カノの存在が明かされます。
以降は三角関係をちらつかせつつ進んでいきます。
この元カレを演じているのはSunnyさん。
BL作品やGMM系への出演がないので日本での知名度はいまいちかもですが、Nadao所属のタレントの中でも屈指の実績を誇っています。
I told sunset about youのBKPPが出演をしたMy ambulanceの主役も務めています。
突如戻ってきた元カノを笑顔で迎えつつ不審の視線を注ぐ、三角形の最後の一点・Miを演じるFahさんについては不勉強ながら知りません。
ちなみに主役のJeanを演じるのは、映画版バッドジーニアスで主役を務めたAokbabさんです。
興味深いのはこの映画。
「どんな物にも思い出がついてまわるから、かんたんに捨てられないんだよ(そしてそれが人としての情なのよ)」
という趣旨で進んでいって、そのまま温かい感じで締めくくるのかと思いきや「でも前に進むためには、過去に始末をつけんといかん」と主人公の背中蹴って、谷底に突き落とすところ。
大切だった過去のなにかを取り戻そうとする試みはすべて失敗し「自分勝手だ」と謗られて、彼女は深く傷つくことになる。
自分だって断捨離で容赦なくゴミ袋に放り込もうとしていたわけだから、相手が自分を「不要な物」としてゴミ袋に入れていても文句はいえないはずなのに……。
彼女は断捨離をして、まっさらな状態で前に踏み出す。
結果だけならそれは当初の予定どおりなのですが、そこに序盤の気軽さはない。
過去に縛られたままでは前には進めないけれど、過去を捨てるのは身を切るような苦痛を味わう事にもなる。
感謝の言葉を心でとなえて、はいさよなら、とはいかないもんだよな。
と苦い結末とともに感じます。
そんな苦いエンディングの後にかかるのがこちらの曲です
どん!
このエントリーを執筆時点、ネットフリックスでご視聴が可能です。
静かな映画ですが、だれる事もない、素晴らしい映画です。
ぜひご覧ください。