私事で大変恐縮ですが、
あまりに長期間、長時間労働をしていたので年度末過ぎて、時間に空きができて途方に暮れてる
— るかっち (@asianpop3) April 4, 2021
あ、BL小説を書けばいいのか?
というツイートをしたところ「千星の二次創作とか書けばいいじゃん?」的なリプライをいただきました。
まぁ人生何事も経験です。
ちょっと頑張って書いてみました。
千星ロスに嘆く方の、100人に1人でも楽しんでもらえたら幸いです。
ちなみにるかっち二次創作とかしたことないので、もしかしたらこのエントリーは予告なく消えたり、よそに移動したりするかもしれません。
あらかじめご了承ください。
では、お楽しみいただければこれ幸い。
どうぞ!↓↓↓↓↓↓↓↓
仏暦 2564年X月XX日
風は再び、僕をパパンダオへと運んでいく
家、お金、満ち足りた生活。この決断で失う物のほうが多いけど……。
それでも、僕はあの村で生きていきたいんだ。
僕自身の人生を。
空港に迎えに来てくれたのは3年前と同じYodさんだ。
Nam先生の結婚式で再会した時、Yodさんとは連絡先を交換してた。
「再び村に赴任する」と伝えたら、遠慮したのに仕事の都合をつけてくれた。
国道を快適に飛ばしてきたYodさんのジープは、今は村へと通じる山道をゆっくり登っている。
大きく開けた窓からの風。バンコクのそれと比べてカラッとしていて気持ちいい。
山肌をならして作られた茶畑を抜けると、そこはもうパパンダオの村だ。
目の前に3年前と変わらない集落が飛び込んできた時は、鼻の奥がツンっとなって、涙をこらえるのが大変だった。
「ほい。とーちゃく!」
Yodさんが車を停めた。
臨時教員のために用意された高床式の質素な家も以前とまるで変わらない。
「ホントにここでいいんですか?Tian先生」
「うん、ありがとう」
車を降りると後部座席のドアを開け、大きなディパックを引っ張り出して背中に背負った。
「どうせ隊長のとこに転がりこむ事になるわけでしょ?送りますよ!」
僕は大げさにため息をつく。
「Yodさんも、Nam先生もどうして決めつけるんですか。僕とあの人がそういう関係だって」
「おや先生、違うんですかい?」
返事に困る。自分で巻いた地雷を踏んでしまったみたいだ。
「ほら違わないんでしょ。大体ね、先生が隊長を見つめる瞳。我らの隊長が先生を見つめるあの瞳。あれ見せつけられちゃったらね、無理ですよ。「友達です!」て、信じませンから。「兄弟です!」て、子供たちだって思いませンから」
僕たち、そんなに判りやすかったんだろうか。
「うぃうぃ〜。赤くなっちゃってまぁカワイイなぁ、Tian先生」
「Yodさん!」
「どうですか?行っちゃいませんか?そのために約束通り隊長には内緒にしてあるんですよ?家の前で『来ちゃった、てへ』って、映画みたいなの。いっちゃいませんか?」「いっちゃいません」
「映えると思うんだけどなぁ、2人なら」
Yodさんは心底残念そうな声で呟いた。
「それより。Yodさん」
「なんでしょう?」
「ちょっと協力してくれませんか?」
怪訝な顔をするYodさんに、考えていた計画を打ち明ける。
「俺よりぜんっぜん策士だなぁ」
とYodさんはニヤニヤする。
「お願いできますか?」
「つつしんで拝命いたします!」
芝居がかった敬礼をするYodさんにお礼を言って、僕は懐かしい我が家(そう。この呼び方が僕には一番しっくりとくる)の門をくぐった。
「Tian先生!」
階段を登る足を止め、振り返る。
「また会えて俺は嬉しいです。お帰りなさい」
二カッと笑うと、Yodさんは車を走らせた。
「ただいまです」
僕は去っていく車に呟いた。
前任者は几帳面な人だったんだろう。部屋はちり一つなく整然と整えられていた。
赴任していた頃と変わらないくたびれた机。その上に置かれた数枚のルーズリーフに目を通す。それは前任者(どうやら男の人らしい)が用意してくれた引き継ぎの書類で、赴任していた3ヶ月間でやった授業の事とか、子どもたちの事、村の事が書かれていた。
僕の前にはTorfunさんがいて、僕の後にもこの人がいる。
この村にあるたった1つしかない学校を、会ったこともない人たちで繋いでく。
その繋がりの一部に、またなれるのが僕は嬉しい。
一息つきたくなるのをこらえて、荷物を下ろして部屋を出た。
山道がきついのは「3歳年を取ったからじゃなく、久しぶりだから」と言い聞かせる。
Yodさんが任務を開始するまでまだ余裕がある。
景色を楽しみながらパパンダオの崖を目指した。
最後に来たのは真冬の深夜で、今まで体験した事のない寒さの中で星を数えた。
あの時、この場所で、幕を下ろした僕と隊長の物語。
第二章をこれから新しく紐解くのなら、僕はこの場所から始めたかった。
木陰を探して腰を下ろす。
風が奏でる森のさざなみを楽しみながら、あの人が現れるのを静かに待った。
傾きかけた日差しを浴びて森の木々が黄金色に輝きだした頃、あの人はようやく現れた。
銃を突きつけられての再会なんて色気の欠片もないけれど、初めて触れた唇は想像よりも柔らかかった。
これがおとぎ噺の締めくくりなら「そうして二人は末長く幸せに暮しましたとさ」で美しく幕を閉じる筈だ。
しかし現実はそうじゃない。それに僕らの第二幕は始まったばかりだ。
けっきょくYodさんが正しくて、村に戻ったその日から僕は隊長の部屋に転がり……。
隊長と部屋を「シェア」することになった。
臨時教師としてこの村に再赴任して五日めの朝。
錆びついたトタン屋根の隙間から差し込む朝日に自然と目が覚め、そして僕は自分が今どこにいるのかを思い出す。
隣に誰がいるかということも。
この森の守護神は、今、僕の隣でかすかな寝息を立てている。
隊長は昨日、一緒に夕ご飯を食べた後、無線で呼ばれて出ていった。
戻ってきた時にはもう今日になっていて、疲れてるなら早く寝なよって言ったのに、結局はおあずけになった色々が始まっちゃった(せがまれて仕方なく、という事にしておきたい)。
そのあと交代でシャワー(というか水浴びというべきか)を浴びて、寝ついたのはたぶん3時近かったはずだ。
昼も夜もないレンジャーという仕事をこなしながらの4日連続。
よく体力が続くもんだと感心してる。さすがは守護神。
正直僕は、ちょっと体を休ませたいんだけどな。
久しぶりの環境にも体がまだ慣れきってないってのもあるし、3年の間に子どもたちも大きくなったせいか、いっぱしの口を聞くようになってて……。なんとなくまだしっくりきていない。
村長主催の歓迎会だって控えてる。
再赴任して初めてのオフくらい、だらだらベッドで寝転んでたいところだけど……。
このベッド。
2人でシェアするにはちっちゃすぎて寝返りひとつ打てないから、朝起きる頃にはあちこち体が痛くてしょうがない。
新しくしちゃ…….。駄目なのかな?
「ベッドが欲しいんだけどな」
ウッドデッキで(と言うほどオシャレなもんじゃないけれど)2人揃って遅めの朝食を取っている時、思い切って聞いてみた。
隊長はスクランブルエッグTianエディション(3年前より格段においしい……はずだ)を頬張ったまま、僕を見る。
「べっど?」
「うん。2人で寝るには狭いよね?やっぱり」
「狭いは狭いが」
「なに?」
「いつでも抱きしめられるから、俺はむしろありがたいな」と不敵に笑う。
「朝からヤメてよ、恥ずかしい」
顔がほてる。
視線をそらしてオレンジジュースを流し込んだ。
「別に買い変えるのは構わないが。どうする?2つ置くのはさすがに無理だろう」
「別々じゃなくてもいいよ。もう少し幅があればさ。ゆっくり眠れるんだ」
「幅があれば、いろいろと幅も広がるな」
「はぁ?なに言って」
隊長のウィンクに、言わんとした事に気がついた。
「やっぱだめ。2つ置く!この部屋にベッドは2つ置きます!」
「Tian」
「甘ったれた声出したってダメ!隊長のはそっち!僕のはこっち!僕がイイって言わない限り、明日から別々のベッドで寝ます」
「厚めのマットにすれば、さらに色々出来るかな」
「しないからな!」
「いっそ天蓋のある奴はどうだ?部屋の真ん中にどーんっと置くんだ。大富豪になった気分で色々楽しめそうじゃないか」
隊長の妄想は広がっていく。
そっちがその気なら、付き合ったげようじゃないですか。
「家から持ってきましょうか?」
「え?」
「小さい頃から使ってるやつが実家にあるよ。細かいフリルのついたカワイイやつ。送ってくれって頼んでみましょうか?」
「いや」
「頼んでみようか?」
「Tian。冗談だから」
「僕も冗談」
「は?」
「さすがに天蓋のつきのベッドはないね」
隊長は苦笑いを浮かべ、マグのコーヒーを流しこむ。
へへ、この変態グリーンジャイアントに一矢報いてやった。
「よし!行くか?」
「は?」
「今より少しだけ大きめのシングルベッド、これから探しに行きますか」
こうして、再赴任して初めてのオフは、隊長とのショッピングデータになった。
オフィシャルには。
これは僕と隊長の初デートだ。
おしまい