「実は……」というサプライズ展開が好物なブログ主・るかっちなのですが。
この作品に限っては「じつはね」と開示された情報が、ことごとく人物への共感を阻害していく気がします
『A Tale of Thousand Stars』の第九話の感想を
第八話↓↓↓
珍しく隊長側の回想としてお話はスタート。
今は亡きTorfunちゃんと隊長が、崖の上で静かに語らうシーンから始まりました。
告白とそれをやんわりお断りするやり取りがあったんだよ……。
ということですがお断りの理由は「危険と隣合わせの自分には伴侶をもつ資格がない」という感じ。
セクマイじゃなかったという事なのか、ごまかしてるのか……。
そっから舞台は現在へ。
前回のブログではスルーしましたけど、Tianがまたも正義感から無茶をやらかし、結果隊長が撃たれてしまう。
からの村の診療所へと運び込まれて大慌て。
事の発端たるTianはできることがなにもないので、隊員たちの後ろでウロウロと。
手伝ってる感を出すために、隊長がベッドに寝かされた時にほんの少しだけ背中を支える。ここの「なにもできないおぼっちゃま」感は微笑ましく思えました。
もちろん隊長は一命を取り留め、これをきっかけに隊長とTianは仲直り。
ところがここでサプラ~イズ
隊長はTianパパと旧知の仲(部下と上司という関係のようです)で、Tianが村に来てからの逐一をパパは隊長を通して知っていたのでした。
「そのうち飽きて戻ってくるだろう」と放置していたTianパパも、息子が怪我したと知り駆けつけてきて「ママも心配してるから、そろそろ実家に戻ってきなさい」とまぁ親としては至極まっとうな意見を述べる。
Tianお坊ちゃまからすれば。
誰にも頼らず、見知らぬ土地で自分なりに頑張ったんだと思っていたのが、実はお釈迦様の手の平で粋がっていただけ、という事実を突きつけられて、プライドを激しく傷つけられる。
あげく、パパに逐一ご注進していたのが「こいつ自分にベタぼれじゃん?」と思い込んでいた(いや事実そうなのですが)Phupha隊長。
隊長が自分に優しくしてくれたのも、すべてパパのご機嫌を取るためだったのかよとプンスカする。
これまでだったら隊長が大人の余裕で折れてあげてたわけですが、隊長はここで
「俺は多忙で、普通ならボンボンにお湯の沸かし方から服の洗い方まで逐一教えてやったりはしないんだよ」
と開き直る。
絶句したTianが「ありがとうございます」と皮肉を口にする前。
一瞬顔が歪んで泣きそうになるところはグッときましたね
全体としては(8話に続いて)9話も「Torfunの死とTianの罪について、みんな物わかり良すぎないかな」と感じて作品と歯車がピシッと噛み合ってないな、という印象なんですが、この回はそれでもチラホラとシーンに気持ちを持っていかれる部分がありました。
この後につづく
「帰る支度をするんだ。遊びの時間は終わった」
「遊びの時間?どうしてみんな、俺が教師としてここに来た事を、お遊びだって決めつけるんだ!」
「お前のようなお坊ちゃまが、真面目にこの土地と関わろうとしたって言うのか?」
「ここで俺がしてきた事を見てこなかったの?」
隊長、無言で目をそらす。
「遊びでここにいると思ってるなら、俺はまだ帰らないよ。アンタは引き続き、務めに励んで俺の世話をすればいい。俺はまだ遊び足りてないんでね」
あたりなんかも、いやアンタ、そもそも自分の意志で教師になったわけじゃないじゃん。Torfunの意思を引き継いだだけじゃん。などと頭の片隅で思いつつも。
村での自分を一番理解してくれると思っていた(しかも惚れている)相手から否定されたらショックですわな、と思いました。
隊長の突然のつれない態度は「息子を自宅へと連れ帰りたい」パパのお言葉を受けてのもの。
身分違いを意識している隊長も心を鬼にして突き放し、彼を元の世界へ戻そうとしてる、という事なんですが。
甘やかされて育った元政治家のご子息様が、親の地盤を引き継いで2世議員になりました。
というよりも。
ど田舎中のど田舎の村で薄給のボランティア教師から、村おこしのリーダーとして地域の中心人物になったのは、バンコクで甘やかされて育ったはずの元政治家のお坊ちゃまでした。
という方が大衆の支持を集めそうだけどな、と思ったんですけどね。
パパが終始監視しているわけなので危険だという事もないでしょうし。
意固地になって「俺は帰らん」モードになったお坊ちゃま。
任期切れと共に代わりの教師が来ることになり強制的にクビになる。
落ち込むTianが、教師の申請時に言われた「(辛いことや上手くいかない事に直面した時は)ここにいる理由を思い出せ」という言葉に励まされて、面構えが変わるくだりは個人的には好印象のシーンでした。
この直前に、子どもたちの目の前で、童話をもじりながらネチネチ隊長に嫌味を言うあまり感じの良くない展開があったので、なおのこと。
この9話で一番好きなシーンはここですかね。
教師をクビになっても、隊長と破局を迎えても、Tianはふっきったようにイキイキと教員生活を続けていくのと比べまして。
我らが隊長は「身分違い」を理由に自ら嫌われるような言動を取っておきながら、凹みまくって家に閉じこもる。
医者に言われてTianが様子を見に行くと、そこにいたのはヒゲモンスター。
僕は爆笑しましたが、Tianはニヤリとすらせず隣に座り「僕たちの関係について」を聞き出そうとする。
「このまま、ここにいてほしくないの?」
「すべての出来事には理由がある」
「とりあえずそれは脇に置いて。僕のこと、どう思ってるかだけを知りたいんだ」
「問題を複雑にするだけだな」
「一言だけでいいんだ。それでぼくはここに残れる。他の事は全部、僕がなんとかするから」
「ほら。まだ理解してない」
「してるってば。でもいいんだ。他の人の事なんてどうでもいいんだよ。あなたが僕のことをどう思ってるか、それが知りたいんだよ」
若干、勿体つけた隊長の口から出た言葉は
「すべてを捨てて俺のそばにいるよりも、本来の場所に戻って自分の人生を生きてくれるのが俺の望み」
という強がり。
Torfunの時は「自分はいつ死ぬかも判らないから」という理由でお断りして、今回は「自分は君の身分に見合わないから」という理由でお断りする。
1人に慣れてしまった人だから、いざ手に入りそうになると、他者と深い関係を築くこと自体が怖い。
という事かもしれません。
自分に選択の余地が無いことを知ったTian。
村を去る前にやっておかなくてはいけない最後の仕事が、Torfunの夢だった崖の上で星を1000まで数えること。
彼はこれが彼女への贖罪になると考えているし、それで自分の罪悪感が消えてなくなる事を願ってますけど。
そもそも彼が抱えている罪悪感は(まっとうな神経の持ち主ならば)一生消えないし、消してはいけないものだと思うんですよね。
彼は罪を抱えたまんま、それでも自分の人生を生きる術をさがさなくてはいけなくて「星を数える」という儀式も、そのための折り合いというか、きっかけとしてしか機能しないんじゃないのかな。
元の世界に戻るのであれば、なおのこと自分の中の罪悪感を消し去ってはいけない。
隊長は別れが辛くてヒゲモンスターになってしまうほど、彼の事を想っていて、それでも彼に「元の世界にもどれ」というのであれば。
人の人生に深く関わることにびびってないで、これからも罪のうずきを感じて生きていくことになるTianをそばで支えてやる。
くらいに気骨を見せて終わってほしいかなぁと、このルートを選択した7話あたりから思っています。
それが僕の思い描く、彼らのハッピーエンドですかね。
さぁどうなるのやら。
待て次号!